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ジンベエザメ(Rhincodon typus。甚平鮫、ジンベイザメ)は、テンジクザメ目ジンベエザメ科に属する濾過摂食性のサメ。 現生最大のサメ、そして、現生最大の魚として知られている。 世界中の熱帯・亜熱帯・温帯の表層海域に広く分布する。動きは緩慢であり、基本的には人にとって危険性の低いサメである。
呼称属名はギリシア語の「rhyngchos (snout、muzzle、鼻ずら、口吻)」と「odontos (tooth、歯)」を語源とするラテン語による合成語。 和名(標準和名)「ジンベエザメ」は、体にある模様が着物の甚兵衛(じんべえ、甚平〈じんべい〉)[2]に似ていることから名づけられたとされる。日本語の揺らぎから、「ジンベイザメ」と呼ばれることも多い。 日本各地の方言による呼称は次の通り。「いびすさが」(茨城県)、「じんべ」(茨城県)、「えびすざめ」(千葉県、神奈川県、静岡県)、「じんべえ」(千葉県)、「じんべい」(福井県)、「さめ」(高知県)、「くじらぶか」(鹿児島県)、「みずさば」(沖縄県)。 英語では whale shark (ホエール・シャーク)、すなわち「鯨鮫」の名で呼ばれる。 ドイツ語 Walhai (ヴァールハイ)は「Wal (鯨) + Hai (鮫)」で「鯨鮫」の意。フランス語 requin baleine (ルカン・バランヌ)は「requin (鮫) + baleine (鯨)」で、イタリア語 squalo balena (スクアーロ・バレーナ)も「squalo (鮫) + balena (鯨)」で、ともに「鯨鮫」の意。本種はこのように多くの言語で「鯨鮫」を意する名を持ち、中国語でも「鯨鯊」と書いて「鯨鮫」を意味している。台湾語では、その肉の味から「豆腐鯊」の異名がある。 分類・進化本種は1828年4月、南アフリカはケープタウンのテーブルベイ(Tabel Bay)にて捕獲された約4.6mの標本をもって、英国人生物学者アンドリュー・スミス(Andrew Smith)により、分類・記載された。本種が属するジンベエザメ科はジンベエザメの1属1種のみで構成される。 ジンベエザメ(種)は、約6,000万年前(新生代暁新世中期〈セランディアン期〉)に登場したと考えられている[3]。中生代を終わらせた大絶滅により破壊された生態系が再構成される過程で生まれてきた種であろう。 特徴分布世界中の熱帯・亜熱帯・温帯(緯度±30°以内)、その表層海域に生息し回遊するが、ラグーン、珊瑚環礁、湾内にも入り込む。河口付近で見られることもある。また、水深約700mでも確認されている[4]。特定の海域に留まる傾向の見えるメスに対し、オスは広い海域を回遊する。彼らは基本的に単独性であり、餌が豊富な海域でない限り集団を形成しない。現在の生息数の実際については必ずしも明確ではない。 形態現在知られている個体記録の信頼に足る最大値は体長約13.7mである。以前に21mのものが報告されたが、これは正確な計測による数値ではない。体形は紡錘形(ぼうすいけい)。体の幅は頭部で最も大きく、通常1.5m程度である。扁平な形の頭部を持ち、その正面の両端(口の端の近く)に小さな眼がある。横幅が最大で1.5mほどにもなる大きな口の中には、細かな歯が300-350本、列をなしている。5対の鰓裂(さいれつ)は胸鰭原基(胸鰭の始まり)の上前方にある。体色は、腹部は白に近い灰色であるが、それ以外の全ての部分は色合いが濃く灰青色であり、頭部・胸鰭・尾鰭には淡黄色の斑点を、胴部には白い格子の中に淡黄色の斑点が配された独特の模様[5]を持っている。さらにこの模様には個体ごとに個性が見られる(これは、観察するにあたっての個体識別にも大いに役立っている)。皮膚組織は分厚く、その厚みは最大値でおよそ10cmにもなる。成体の尾鰭は普通は半ば三日月形(下部がやや小さい)、ときに三日月形であるが、若い個体のそれは下部が目立たず、上部だけが大きいという特徴を持つ。 生態プランクトン(オキアミを含む小型甲殻類やその幼生、頭足類の幼生など)のほか、小魚、海藻などを摂食する。海水と一緒にそれらの生物を口腔内に吸い込み、鰓耙[6]で濾(こ)し取り、鰓裂から水だけを排出し、残った生物を呑み込むという給餌方法である。プランクトンは海面付近に多いため、彼らも生活のほとんどを海面近くですごす。サンゴの産卵期にはその卵を食す。海面付近に漂う餌を効率よく口内に吸い込むために、体を垂直近くにまで傾ける習性が見られる。このため、大きな個体を飼育する沖縄美ら海水族館では、ジンベエザメの成熟した個体がそのような姿勢をとるに十分な大水槽の水深を10mとしている。 本種とイワシ等の小魚はともにプランクトンを主食としており、したがって両者は同じ海域に餌を求めることが多い。小魚やその小魚を餌とする中型の魚はカツオやマグロ[7]といった大型回遊魚の餌であるから、本種のいる海域には大型回遊魚の群れがいる可能性も高くなる。つまりこのように、ジンベエザメは1個体で一つの小さな生態系を形作るのである。なお、これに関連する民俗的事象については「民俗」の項を参照のこと。 動きは緩慢で、遊泳速度は通常時、時速わずかに5km程度でしかない。 性格はいたっておとなしい。また、非常に臆病で、環境の変化に弱く、そのため人工飼育が難しい。しかし、大阪市の海遊館や沖縄県の国営沖縄水族館(現・沖縄美ら海水族館)などで長期の飼育記録がある。 繁殖についてはあまり分かっていないものの、数年に一回の割合でしか出産しない繁殖力の低い動物であることは知られている。かつては卵生であると信じられていたが、1995年に妊娠中のメスが捕獲され、胎生であることが判明した。卵は長径30cm、短径9cmに達するものもあり、メスの胎内で孵化した後、40cmから60cmに達した状態で出産される。約30年で成熟し、60年から70年ほどを生きる。なかには150年を生きるとの説もある。 濾過摂食
回遊しながらプランクトンを摂食するジンベエザメ(周辺の小魚はコバンザメ)
濾過摂食性動物は生態ピラミッドの最低位にあるプランクトンを主食とする低次消費者のニッチ(生態的地位)である。しかし、動物史上では、この地位にこそ最大級の種が含まれていることが多い[8]。軟骨魚類としてはジンベエザメやウバザメ、オニイトマキエイなどがその好例であり、海生動物全体ではヒゲクジラ類を筆頭に挙げるべきであろう。また、過去の時代では中生代の一時期を生きた硬骨魚類のリードシクティスが、シロナガスクジラに迫る史上最大級の動物として知られている。最も生物総量に優れた最小の消費者(実際は生産者も含む)を優先的に大量に摂ることは生物的強者でなければ許されない特権とも言える。彼らは低次消費者ではあるが、その意味で「勝利者」なのである。このニッチの占有者(その祖先動物)は競合力の高さによってその地位を獲得していったのであろう。 人間との関係民俗ジンベエザメは1個体で一つの小さな生態系を形作る。この生態的な連鎖は経験的に古くから漁師の知るところでもあって、ゆえに本種は地域によっては大漁の吉兆とされ、福の神のように考えられてきた。「えびすざめ」[9]という関東方言による呼称などはまさにこのことを表すものであるし、その他の各地でも「えびす」「えべっさん」などと呼ばれて崇められてきた漁業神には、クジラ類だけでなくジンベエザメもその正体に含まれているという(「生態」の項、および、「えびす」の「クジラ(海神・漁業神)としての変遷」の項も参照)。そして、この信仰は現在も活き続けているのであり、祠(ほこら)は大切に守られている。 宮城県金華山沖に出現するという伝承が残る海の怪「じんべいさま」は、その正体がジンベエザメではないかと言われている。猟師の気づかぬ間に舟の真下に現れる大きな影として伝えられる「じんべいさま」は、あまりの大きさにその全容が掴めない。しかし、特に悪さをするわけでもなく、むしろ、これが出たときにはカツオが大漁になると言われ、吉兆の物の怪として語り継がれてきたようである。これも上述の漁業神の一種である。 ベトナムではクジラのことを Ca Ong (カオン)と呼んで古くから信仰対象としてきたが、この海神にはクジラに混ざってジンベエザメも含まれる。この Ca Ong は「Sir fish」、言わば「魚卿」とでも表すべき語義を持っている。 乱獲本種は日本を初めとした先進国では特に食用とはしない。上述の通り、ジンベエザメの周りには多くの魚が集まることが知られており、古来日本では本種をうやまいこそすれ食用とすることは一般的ではなかったようである。けれども、世界の全ての地域でそのような扱いであったわけでは決してない。 現在、ジンベエザメはワシントン条約のレッドリストに入れられるほどに数が減ってしまったと言われている。直接的原因は食糧不足に悩む発展途上国の人々による乱獲にある。これに繁殖力の低さも手伝って、いよいよ危機が叫ばれるような状況にまでなった。そうして今日、ジンベエザメ保護の声が高まりつつある。 飼育沖縄本島読谷村沖の海中生簀内で飼育されている。生簀内外でのスキューバダイビングおよびスノーケリングが可能。 憧れスキューバダイビングの世界では「ダイバーの憧れ」とされる。モルディブ、ガラパゴス諸島、ココ島、および、スミラン(Similan Islands)などで目撃例が多い。回遊しているため、沖縄、四国、伊豆などでも稀に見られる。 脚注
関連項目外部リンク
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