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水銀(すいぎん、羅Hydrargentum)は原子番号80の元素。元素記号はHg。汞とも書く。12族に属し、典型元素で金属元素である。常温、常圧で液体である唯一の金属元素で、銀のような白い光沢を放つことからこの名がある。 硫化物である辰砂(HgS)及び単体である自然水銀(Hg)として主に産出する。
名称元素記号のHgは、古代ギリシア語: ὑδράργυρος (hydrargyros)に由来するラテン語: hydrargyrum(水のような銀)の略。また、古くはラテン語: argentum vivum(生命力ある銀、流動するので生きているという表現をした)ともいい、英: quicksilver(現在はMercuryが一般的)、独: Quecksilberに翻訳借用された。 日本語ではみずかねと呼ばれていた。 漢字では古来「汞」の字をあて、現代の中国語でもこの表記が正式である。(中国でも「水銀」は通称として用いられる。) 英語: Mercuryというが、西洋占星術や錬金術などの神秘思想では、ギリシャ神話のヘルメス(ローマ神話のメルクリウス)と関連づけられ、その星である水星を象徴するようになった。これは、液体で金属であるという奇妙な性質が、変幻自在で油断ならないヘルメスの性格と関連づけられたためである。 性質水銀は、各種の金属と混和し、アマルガムと呼ばれる合金をつくる。これは水銀が大半を占める場合には液体、水銀の量が少なければ固体となる。白金、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンとは合金を形成しないので、水銀の保存には鉄の容器が用いられる。 生物に対して毒性が強いために、近年は使用が控えられている金属である。 また、その特異な性質から様々な科学者の興味の対象となり、多くの現象の発見にかかわっている。
毒性詳細は「水銀中毒」を参照 古代においては、水銀や辰砂(鮮血色をしている)はその特性や外見から不死の薬として珍重されてきた。特に中国の皇帝に愛用されており、それが日本に伝わり飛鳥時代の持統天皇も若さと美しさを保つために飲んでいたとされる。しかし現代から見ればまさに毒を飲んでいるに等しく、始皇帝を始め多くの権力者が命を落としたといわれている。中世期以降、水銀は毒として認知されるようになった。 世界中において有機水銀はかつて農薬として広く使われ、1970年代にイラクでは、メチル水銀で消毒した小麦の種を食用に流用したパンによって有機水銀中毒で400人以上が死亡する事件がおきた。そして、その毒性から現在は使用が禁止され、代わりに無機水銀などが使われるようになった。さらに、現在では水銀化合物自体の使用が環境汚染につながるとして忌避されるようになっている。 2001年にアメリカ合衆国では「乳児の際に受けた予防接種中のチメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム・ワクチンの防腐剤として使用される)によって自閉症になった」として製薬会社に対する訴訟が発生した。三種混合ワクチン、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンなどの保存剤としてチメロサールが使われていたためである。有機水銀と自閉症を関連づける明確なデータがないため疑問視されているが、チメロサールを使わないか低濃度のものに替えるなど規制が強化されている。 有機水銀は無機水銀に比べ毒性が非常に強い。特にメチル水銀の中枢神経系(脳)に対する毒性は強力で、日本で起きた水俣病(熊本県八代海)や阿賀野川流域(新潟県)でおきた工場排水に起因する有機水銀中毒(第二水俣病)の原因物質である。 地球上においては地殻などに水銀が比較的豊富に存在する。これら自然界に存在する水銀は水系環境において非酵素的反応や微生物の作用によって有機水銀に変化し、食物連鎖を通じて、大形魚類や、深海魚、海洋動物に蓄積される。厚生労働省はキンメダイやカジキ、マグロなどの魚類、クジラ、イルカなどの海棲哺乳類に含まれる水銀が胎児の発育に影響を及ぼす恐れがあるとして、妊娠中かその可能性の有る女性は、魚介類の摂取量や回数を制限するように注意を喚起している[1]。 栄養摂取に占める魚介類の割合が多い日本では、メチル水銀の摂取量が諸外国に比較して比較的高いことが知られている。メチル水銀の摂取量の地域的特徴は、マグロ類の消費傾向とよく一致し、関東地方などを中心とする東日本で高く、中国地方から九州北部にかけて比較的低くなっている。 魚介類は栄養的にも優れた食品であり、バランスの取れた食生活をしている限りは、通常は微量の汚染物質による健康影響を心配する必要はあまりない。一方、発育途中にある胎児の神経系は、メチル水銀の影響を最も受けやすいと考えられる。魚介類にはある種の不飽和脂肪酸など、胎児の発育などにも有効な成分も多く含まれており、魚介類中に含まれる微量のメチル水銀が、胎児の発達にどれほどの影響を及ぼしているかは、研究者によっても見解が分かれるところである。欧米の政府機関は、基準を設けて、マグロやカジキなどの摂取制限を行っている[2]。特に妊婦や妊娠する可能性のある女性は、メチル水銀を多く含む大形食魚やイルカ、キンメダイなどの魚介類などを、基準より食べ過ぎないよう注意するとよい[3]。なお、マグロなどの魚介類は有害物質のセレンを含んでおり、これがメチル水銀の毒性を軽減させているとの可能性も指摘されているが、詳細は不明である。 自然界では無機水銀及び有機水銀を処理して、金属状態の水銀に変化させる菌が存在する。この菌は通称水銀耐性菌と呼ばれ、水俣病の発生した地域の土壌から単離された。水銀耐性菌において無機水銀及び有機水銀を金属水銀に代謝するのは、この菌の産生するタンパク質によるものであることが遺伝子工学的な解析により判明しており、その担当遺伝子の解析も行われている(メタロチオネインも参考のこと)。環境汚染の浄化技術として、いわゆるバイオレメディエーションへの応用も行われている。 体温計に使われている水銀は金属水銀なので安全だと言われている。金属水銀は間違って飲み込んだとしても、消化管からはほとんど吸収されないので、急性中毒を起こすことはない(ただし、一部が腸内細菌叢により酸化されたり、有機水銀に転換されて吸収される余地が示唆されている)。しかし、気化した場合には肺から吸収されやすく、体内に吸収された場合にはヘモグロビンや血清アルブミンと結合し毒性を示す。このため水銀を含有する物(蛍光灯・体温計・血圧計、朱肉など)を焼却することは危険である。 許容摂取量許容摂取量は、国際専門会議(JECFA)において、胎児を保護するため、暫定的耐容量(PTWI)1.6μg/kgと定められており[4]諸外国[5]、においても、妊婦等への摂食制限の啓蒙や規制強化が行われている[6][7]。 底質における水銀の蓄積水銀の外部環境への排出抑制は取組が進んでいるが、過去に排出された水銀や現在でも水銀を含む農薬が許可されている国域では河口や湖などの底質に蓄積されていることがある。日本国については産業技術総合研究所で全国の河川の底質を分析して日本の地球化学図としてそのデーターを公開している[8]。また環境省は基準値以上の水銀化合物を含む底質を除去するように政令で通達している[9]。 水銀の基準
生産水銀の鉱山としては、スペインのシウダー・レアルにある国営アルマデン鉱山が有名。古代ローマの紀元前372年からアラブ時代、そして現在に至るまで辰砂及び自然水銀を産出していたが2004年7月に生産を停止した。日本では、北海道留辺蘂町にあったイトムカ鉱山や、古代から産出記録がある丹生鉱山が知られている。ここでは自然水銀の産出が多いことでも有名。 水銀鉱石水銀鉱石を構成する鉱石鉱物には、次のようなものがある。 用途産業用、研究用
医療用など
その他の日用品など
分析法水銀は常温で容易に気化するため、分析法は還元気化原子吸光法が主である。測定機器としては原子吸光分析装置のバーナヘッド部を石英セルに置き換えるほか、水銀測定専用の装置が市販されている。有機水銀の場合は試料を分解せず溶媒抽出後、ガスクロマトグラフィーで分離し電子捕獲検出器や質量分析装置で検出する場合もある。 総水銀の分析手順は概ね次のようなものである。詳細は成書を参照されたい。
化合物
Hg(IV) の化合物は存在が予言されるにとどまっていたが、2007年に初めて HgF4 の合成が報告された。固体ArまたはNeマトリクス中の極低温下で水銀と F2 との反応により合成された[13]。 脚注
関連項目
外部リンク
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