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硫化水素(りゅうかすいそ, hydrogen sulfide)は、硫黄と水素からなる無機化合物で、無色の気体。化学式 H2S。腐卵臭(卵が腐ったときに示す独特の臭い)を持つ。空気との比重は1.1905である(空気より重い)。
特徴空気より重く(比重1.1950)、無色、水によく溶け弱い酸性を示し、腐った卵に似た特徴的な強い刺激臭(腐卵臭とはそもそも硫化水素が主成分の臭いである)があり、目、皮膚、粘膜を刺激する有毒な気体である。悪臭防止法に基づく特定悪臭物質のひとつ。噴火口や硫黄泉などの臭いが「硫黄の臭い」と形容される場合があるが、硫黄は無臭であり、これは硫化水素の臭いをさしている。 人為的な発生源には石油化学工業などがあり、また、下水処理場、ごみ処理場などにおいても、硫黄が嫌気性細菌によって還元され硫化水素が発生する。 飲食店などの厨房排水で設置される分離槽や溜め枡内で閉店後水が動かなくなると非常に良く発生する。これが原因で冷蔵庫や空調機器の銅管腐食が生じガス漏れで不冷となる事が非常に多い。 糞、屁にも若干含まれる。 また、自然由来としては、火山ガスや温泉などに含まれる。空気よりも重いため火山地帯、温泉の吹き出し口などの窪地にたまりやすい。 可燃性ガスであり引火性がある。爆発限界は4.3 - 46v/v%。燃焼した場合には硫黄酸化物となる。 化学的性質硫化水素は共有結合性の水素化合物で、硫黄と酸素とが周期表において同じ元素の族(酸素族)であるため水と分子構造がよく似ている。密度は、空気を1とすると1.190であり空気よりも重い。 水溶液(硫化水素酸)では、水硫化物イオン (HS−) と水素イオン (H+) に電離して弱い酸性を示す。
その水溶液はゆっくりと酸素と反応して単体硫黄を生じる。硫化物イオンは固体の状態では知られているが、水溶液の状態では知られていない(c.f.:酸化物)。硫化水素の2番目の酸解離定数は10-13付近になるといわれるが、これはアルカリ溶液における硫黄の酸化が原因の誤りであることが現在、明確に分かっている。現在、pKa2は19±2と見積もられている。 硫化水素は金属イオンを含む水溶液と反応して、金属硫化物の沈殿を生じる。沈殿の色は、金属イオンの分解・検出の重要なポイントとなる。温泉街など硫化水素が発生しやすい場所では、銀、銅は接触によってサビ・腐食が発生するため持ち込まないようにと注意書きも見受けられる。 硫化水素と二酸化硫黄との反応から、単体の硫黄と水が生じる。本反応は硫黄回収装置に応用されている。 製法実験室的製法多くの場合金属硫化物に酸性水溶液を加えると硫化水素ガスが発生する。 このことを利用して、中等教育における理科教育では、試験管を用いて微量の硫化鉄(II)と希塩酸から硫化水素を製造する実験がしばしば行われている。また、実験室規模での発生では硫化鉄と希硫酸からキップの装置を使って合成する方法が知られているが、今日では実験用途では工業的に生産されたガスボンベを利用することが通常である。 後述する毒性の高さから、実験室規模の製法の実施にあたっても、安全性を確保するために十分な換気の確保と理科教員や資格者による監視・管理のもと実施される必要がある。 工業的製法工業的な硫化水素の製造法としては
がある。 用途チオ有機化合物の合成メタンチオール、エタンチオールそして、チオグリコール酸など、いくつかの有機硫黄化合物は硫化水素を使って作られる。 硫化アルカリ金属アルカリ金属と反応して、生体高分子の分解に使われる硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムのようなアルカリ硫化水素に変換する。クラフト法による皮革の脱毛とパルプの脱リグニンは両方アルカリ硫化物の影響による。 分析化学硫化水素は分析化学において重要な物質で、金属イオンの定性分析に使われている。この場合、今日では硫化水素を直接用いるのではなくチオアセトアミドを使う方法が通常用いられる。チオアセトアミドはある種の金属イオンと反応したのち加水分解して金属硫化物を与える。この分析では、重金属(と非金属)イオン(例:Pb(II)、Cu(II)、Hg(II)、As(III))は溶液中の硫化水素の影響で沈殿する。沈殿物はいくつかの選択性によって再溶解する。 硫化金属前駆体上で示したように多くの金属イオンは硫化水素と反応して対応する硫化物を与えるため、広く利用されている。浮遊選鉱による金属鉱石の浄化では、鉱物粉はよく硫化水素で処理され、分離を促進する。一部の金属はときどき硫化水素によって不動態を作る。水素化脱硫に使われる触媒は硫化水素によって活性化し、また、精製所で使われる金属触媒の動作は硫化水素によって変化する。 その他硫化水素はガードラースルフィド法(Girdler sulfide process)によって、通常の水から重水を分離するのにも使われる。 毒性毒性は、化学的な反応性の高さによる皮膚粘膜への刺激性とシトクロムcオキシダーゼの阻害が挙げられる。 シトクロムcオキシダーゼ阻害作用は非常に急速に発生し、高濃度での暴露を受けた場合には数呼吸で肺の酸素分圧が低下することによる呼吸麻痺を起こし、呼吸中枢が活動できなくなる結果昏倒に至る。この現象は「ノックダウン」とよばれる。皮膚粘膜への刺激性は中長期的な影響となり、気管支炎や肺水腫を起こす[1][2]。 また硫化水素は独特の臭気があるが嗅覚を麻痺させる作用もあり、高濃度で匂いを感じなくなる。従って濃度が致死量を超えていても嗅覚で知覚できないケースもあるため注意が必要になる。(例えば火山周辺の硫化水素存在警告看板に注意する事等)。知らずに近づいた登山者やスキー客・温泉客が死亡する例も見受けられる。 鉱工業においてはビルの汚水槽や排水プラント等の下水道施設、化学工業・実験施設において事故が度々発生しており、このような場所での作業では監視・管理が法規制されている[3]。年余にわたる微量の曝露では変異原性が指摘されている[4]。 硫化水素ガスに暴露して死亡した場合、遺体に緑色を帯びた暗紫赤色や緑色を帯びた暗赤褐色の死斑が現れたり、遺体の臓器が灰緑色になったりすることがある。これらは血液に含まれるヘモグロビンに硫化水素が作用し、硫化ヘモグロビンになることによる。ただし、高濃度の硫化水素ガスに暴露して即死した場合、遺体、遺体の臓器に色が着くことは無く、臓器の組織から硫化水素が認められないこともある[5]。 救出前述の通りの毒性の高さや皮膚粘膜への刺激性や空気より重い性質などから、急性中毒者の不用意な救出は深刻な二次被害をもたらす危険がある。とくに、急性中毒者を助け起こそうとする試みは致命的なものとなる可能性がある。救助活動には空気呼吸器の着装が必須であり、化学防護服の着装が望ましいとされている。 治療急性中毒の治療は、まず外気に当てて衣服等に含まれる硫化水素を飛ばし、患者には100%酸素を吸入させる。その際ジャクソンリースのような再呼吸式の吸入具は有毒ガス呼出の妨げとなるため、絶対に使用できない。 解毒剤として有効性が示されているのは亜硝酸アミルなどの亜硝酸塩のみである。硫化水素は血管壁の亜酸化窒素合成を阻害することが毒性の発現経路の一つであるためだが、曝露後数分以内に投与しなければ著効が期待できない。 最初の数時間を乗り切った重症患者は、後に急性肺傷害を発病する危険性が高い。このため気管挿管と人工呼吸器管理が必要となるが、これらの処置を行う医療従事者は2次汚染を防ぐための万全の対策を以て臨んでいる。[6] 濃度対危険度
社会問題2007年頃より硫化水素を発生させ自殺する事件が度々起こっており、2008年3月頃からは特に急増している。警察庁によると硫化水素による自殺者は2007年に通年で27件29人だったことに対し、2008年1月から5月の5ヶ月間で489件517人にまで急増していると報告された。[7] この際、救助しようとした人間が巻き込まれたり、階下の住民が巻き添えとなった事例も報告されている。2008年3月にはTBSが硫化水素を発生させる方法やその他自殺のためのノウハウを情報番組内で紹介している[8]。高い確実性のある自殺の具体的手法がインターネット上に多数流通していることを受け、京都府警察がプロバイダにこれらの情報の削除を要求する事態にまで発展した。その後、警察庁は各都道府県警察本部に対し、硫化水素ガスの自殺目的での製造を教示する情報について、「情報自体から、違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引する情報」としてプロバイダ等に有害情報として削除等の措置を依頼することを求める通達を出した[9]。同通達別添によれば、インターネット・ホットラインセンターに対しても、業務委託仕様書上の位置付けとして同様の扱いを求めたとしている。 なお一部で「硫化水素で自殺すると綺麗に死ぬ」という趣旨の記述が散見されるが、実際には上記の通り呼吸器系への傷害や身体の著しい変色が発生し、加えて強い頭痛・嘔吐や神経系へのダメージを発症する上、死後の筋弛緩による死後排便・死後排尿が発生しうるために、綺麗に死ねるとは言い難い。 また一部ではその毒性から、無差別テロに悪用されるのではないかという指摘もある(実際、2008年5月7日に硫化水素を使用しての強盗事件[10]や10月14日には殺人未遂事件[11]も発生している。) 2008年より硫化水素が発生した際の救出訓練を行う場所も多くなった。京阪宇治バス京田辺営業所では2008年6月にバス車内で硫化水素が発生した際の避難および救出の訓練を実施した。この訓練はNHKのニュースでも放送された。 関連項目外部リンク
脚注
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